2019.5.11-12 富士スピードウェイ2戦ともにファステストラップを記録
しかし惜しくも勝利には届かず
インタープロトシリーズは7年目を迎え、K-tunes Racingにとっては3度目の開幕戦となる。チーム代表であり、ドライバーでもある末長一範選手をはじめ、チームにはシーズンが始まることで気持ちの昂ぶりやプレッシャーといった類の気負いは感じさせない。淡々とルーティーンをこなしながら、その時を待つ。そんな静かな幕開けだった。
まずはジェントルマンクラスの予選。序盤は1分50秒台を記録し、落ち着いた走りを見せ、コンスタントにタイムを刻んでいく。6周目には1分49秒742をマークし、総合2番手、Gクラスでは#7とおる君選手にコンマ2秒差のトップに立ち、予選のセッションを終える。「3年目に入るなかで、過去最高、いちばんいい結果になりました」と予選アタックを振り返る。ベストタイムを出した時点で残り5分。さらに攻めることもできたが、「クルマがつまってくるし、そこで自分のペースを乱してタイムが出せず、悪いイメージで終わりたくなかった」と、土曜の第1戦決勝レース、日曜には第2戦もあるという状況を踏まえたクレバーな判断だったと言えるだろう。
予選で得たいいイメージをそのままに迎えた第1戦の決勝レース。クリーンなスタートからGクラストップのポジションをキープ。ジワリと差をつめてくる後続のマシンに対して隙を見せることなく、落ち着いた走りを見せていた。しかし、3周目のダンロップコーナーの入り口でハーフスピンを喫し、ポジションを下げてしまう。
「ギリギリのスピードで走っているので、ちょっとしたミスが、ああいう状況に繋がってしまいますね」(末長選手)
再スタート後に展開された、末長選手のチャレンジは、第1戦のハイライトと言っていいだろう。スピン直後の周回で1分50秒258というファステストラップをマークし、前を行くマシンに迫る。見ているほうからすれば、“猛追”という表現を使いたくなるところだが、当の末長選手にはそうした鬼気迫るという印象は皆無で、いかに落ち着いて走れるか、その一点に終止していた感がある。もちろん、ミスをカバーするべく奮起はするのはアスリートとして自明であるが、焦る必要はない。予選のタイムを見れば末長選手の速さが際立っているのは周知の事実であり、自分のペースで走れば、自ずとポジションアップのチャンスは巡ってくるという読みもあった。事実、5周目のダンロップコーナーで#8けんたろ選手を、8周目のTGRコーナーでは#55虫谷泰典選手を抜いてGクラス2番手に浮上し、さらに前を目指す。
中盤から後半にかけては、コンスタントに1分50秒台を刻み、前を行くマシンとの差を徐々につめていくが、総合3位、Gクラス2位でのゴールとなった。レースに“タラレバ”は禁物だが、スピンがなければGクラスのトップを堅持していたのは間違いない。レースそのものには末長選手も手応えは感じていたようで、翌日の第2戦に向けて「今日と同じことが起こらないように、慎重を期して挑みたい。ペースも悪くなかったので、落ち着いていけば問題ないと思います」と語ってくれた。
明けて5月12日、12周で争われるジェントルマンクラス決勝レース第2戦が行われた。第1戦の結果を受け、総合2番手、Gクラス2番手からのスタートとなるが、第1戦の走りを継続できれば、念願のGクラスでの優勝も大いに狙える。
スタートを無難に決め、第1戦よりも慎重なレース運びに見えたが、4周目にはファステストラップとなる1分51秒522をマーク。残り周回数を鑑みても前を行くマシンを射程に収めるのは時間の問題と思われた。しかし5周目のTGRコーナーに入る直前、後方から迫ってきた#16渡邊久和選手がブレーキングミスで体勢を崩し、そのはずみで末長選手のマシンに接触するアクシデントが発生する。末長選手はいったんコースに戻るが、接触した際にオイルクーラーを破損し、それを起因としたエンジンブローによってコカ・コーラーコーナーのコースサイドにマシンをストップ。再走行はかなわず無念のリタイアとなった。
予選から冷静沈着に自分のペースで走り、攻める場面では果敢にアタックしてきた。その結果が伴いつつあっただけに悔やまれるが、アクシデントが起こるのもレースの一幕である。不運はあったものの、第1大会で末長選手が掴んだ手応えが次戦逆襲のきっかけになるのは間違いない。
2019.5.11-12 富士スピードウェイアクシデントをチーム一丸となって乗り越え
2戦ともに優勝争いに加わる快挙
末長一範選手のリタイヤは無念だが、しかしマシンが受けたダメージは、ジェントルマンクラスに続いて行われるプロフェッショナルクラス第1戦、中山雄一選手の出走が危ぶまれる深刻なものだった。最多参戦を誇り、今シーズン最もチャンピオンに近い存在である中山選手が走れない……。修復か、リタイヤか、そんな決断を迫られていたのは、決勝スタートのわずか3時間前のことだった。
時計の針を、前日5月11日のプロフェッショナルクラス予選まで戻そう。
中山選手は計測2周目に1分46秒370、次の周には45秒578をマーク。インタープロト最多参戦の経験を生かしてアタックも決まり、ポールポジションを獲得した。
「ポールポジションは久しぶりで、しかも96号車でのポールは初めてなので嬉しいですね。末長選手もクラスポールを獲得しましたが、その結果以上に末長さんが自分の限界に挑戦してタイムを上げてきたという頑張りとポジティブな流れを予選に繋げられたかな、と思います」(中山選手)
かくして、中山選手が優勝に最も近いという、大きなチャンスが到来した。2番手につけた#7野尻選手はレーシングカート時代から切磋琢磨してきたライバルであり、昨年の最後2戦で連勝している強敵でもある。同じく45秒台というタイムを見ても面白い展開になることが予想された。
そして5月12日、第1戦の決勝を迎えることになったが、ピットには午前中のレースでエンジンが壊れた96号車があった。さすがに、3時間でエンジン載せ替えを完了させるのは至難の業と思われたが、「この世界にいて、時間があるのに修復をやらないという選択はない」と、K-tunes Racingのクルーは修復作業にとりかかる決断を下した。マシン後部のスペースフレームを外し、キャビンとトランスミッションの間にあるエンジンを脱着していく。市販車とは違い、エンジンは骨格の一部として固定されている。それだけに厄介だ。
しかし4時間後、出走前点検が締め切るわずか5分前にすべての作業が完了。メカニックが全力で挑戦し、見事にミッションクリアしたのだ。
歓声があがったピットから中山選手は96号車をポールポジションにつけた。だがテスト走行なしのぶっつけ本番である。一抹の不安はあるものの、フォーメーションラップを走る96号車に大きな問題はなく、第1戦決勝レースの火蓋が切られた。
ポールポジションから上手くスタートを決めた中山選手は、序盤はトップを譲ることなく周回を重ねる。しかし後続からプッシュされる展開。セクター2は速いが、ストレートではいまひとつパンチを欠き3周目には#7野尻選手に先行を許してしまう。
「やはり、エンジンのフィーリングがよくなかった。ストレートでスリップについてなんとか追いつくという状況なので、なかなか前を抜けない。しかも野尻選手のペースがよかったので耐えきれませんでした。載せ替えた後に1度もテストができなかったのでしょうがないんですが、シフトアップのタイムラグも大きめの設定になっていたし、抜かれた後は1周ごとに離されてしまいました」(中山選手)
その後は、前を行くマシンを追いながら、後続に対して隙きを見せることなく逃げ切り、2位でゴールすることとなった。
第2戦は間髪入れず行われるため、当然のことながらセッティングの変更はできない。中山選手は第1戦の結果から、2番グリッドでスタートとなる。TGRコーナーの進入ではポジションをキープしたが、2周目のコカ・コーラコーナーで#55山下選手にあえなく抜かれてしまう。「もうちょっと耐えられるかなと思ったんですけど、勢いがなくて厳しかった」と語るように、ラップタイムはコンスタントに46秒台を刻むものの、第1戦と同じくストレートでの伸びがいまひとつで苦戦を強いられる。しかし、中山選手は技を駆使して先行する2台についていくという展開。セクター3ではどのマシンよりも速いが、前を行く#55山下選手も負けていない。レース後半果敢にバトルを仕掛けるが、抜くに至らず3位のポジションをキープするにとどまった。
結果として、第1戦が2位、続く第2戦は3位。アクシデントによるハンデを背負っての闘いだったにもかかわらず、この結果は十分に称賛に値する。ドライバー、そしてチームも闘い抜いた結果の賜物だった。
コメント
Gentleman Driver末長一範
予選はいいペースでタイムを出せましたが、肝心の決勝(第1戦)ではスピンして苦しい展開になってしまいました。第2戦はそれを意識して、慎重になりすぎましたね。最初の2周目、3周目あたりまでペースが悪くて、これじゃまずいなと思っているうちに後ろが迫ってきたので気持ちを切り替えたんです。よし!これで行こうと思っていた矢先のアクシデントだったわけですが、状況を考えると運が悪かったと思うしかないですね。
Professional Driver中山雄一
出走できないというのが最悪の結果だったと思うので、それを考えるとレースができて2位(第1戦)、3位(第2戦)という結果が残せたことはチームに感謝したいと思います。確かにエンジンのスピードは改善の余地がありますけど、まずは自分がうまく戦えるようなセットアップを考えていく必要がありますね。いろいろなトラブルが起きましたけど、それがチーム力の向上に繋がったのでドライバーもメカニックも自信をもって次に臨めると思います。