2019.5.25-26 鈴鹿サーキット戦闘力十分のRC F GT3で
今季2勝目の奪取に成功
戦略的な失敗によって、レースを失ってしまった前戦。だが、第3戦鈴鹿サーキットのK-tunes Racingのピットには、重苦しい空気はなかった。
「富士がああいう形でレースを台無しにしてしまったからね。ペースは良くて、十分に戦える速さを持っていただけに、本当に悔しかった。それだけに今回のレースは、取り返しにいかないと。絶対に落とせない、というレースですね。」影山正彦チーム監督の言葉はいつものように落ち着いたものではあったが、強さを感じさせた。
小排気量ターボエンジンと大排気量ノンターボエンジン、フロントエンジンとミッドシップエンジンなど、さまざまな構造や特徴を持つマシンが競っているのが、GT300クラスの魅力でもある。それがコース毎に得手・不得手を生み出す。
昨年、チーム初優勝を遂げた鈴鹿サーキットは、LEXUS RC F GT3にとってマッチしたコースだ。実際、レースウィークラップは悪くなく、その手応えが期待感となり、チームの雰囲気にもプラスだったのかもしれない。
ここまで2戦、いずれも雨に強く影響を受けたレースが続いた。が、3度目の正直、レースウィークの鈴鹿サーキットに雨雲が覆うことはなかった。
予選Q1のアタックに向かったのは新田守男選手で、5番手タイムをマーク。阪口晴南選手は続く予選Q2で、見事に2番手のタイムを出す。開幕戦と同じく、決勝レースは2番グリッドからのスタートが決まった。ポールポジションは#25HOPPY 86 MCの松井孝允/佐藤公哉組。マシンレギュレーションの枠組みが異なるJAF-GTという規定のマシンで、GT3マシンよりも軽量でハンドリングに優れるが、その分パワーが小さい。
「前戦は早めに動いて失敗しているので、今回は待って待って周りの様子を見ながらレースしていきたいね。」と半分冗談のように影山正彦チーム監督はコメントしてくれた。マシンは十分な速さを持ち、しかも予選結果が良い。それだけに攻める必要はない、という判断なのだろうか。もちろん、その時点でチーム戦略が明らかではなく、K-tunes Racingらしい積極策もあり得るだろう。予選2位という結果によって、レース戦略の選択肢が拡がったことは間違いなかった。
ただしチームには、むしろ緊張感が高まっていたように見えた。予選結果が良かっただけに、本当に落とせないレースになってしまったのだ。
決勝レース、スタートドライバーは新田守男選手が担当した。フロントローから順当に2位のポジションを得てレースは始まった。ベテランらしい安定した走りで、前を走る若手・#25佐藤公哉選手をしっかりと追いかける。後ろを走るのは#61SUBARU BRZ R&D SPORTの山内英輝選手とのギャップも確保している。レースは、途中セーフティカーが入ったが、そのまま順位変動がなく、進んでいった。
そして21周目、トップの#25佐藤公哉選手がドライバー交代のためのピットイン、新田守男選手は自動的にトップに立った。そして24周目、新田守男選手がピットインし、阪口晴南選手へとドライバー交代。同時に燃料補給と4本全てのタイヤ交換を行った。2台ともミスなくピット作業を済ませたため、トップ争いはそのまま続くことになった。
2019.5.25-26 鈴鹿サーキット戦闘力十分のRC F GT3で
今季2勝目の奪取に成功
ただし戦略は異なっていた。25号車はピットタイムを短くするためタイヤ無交換という作戦に出ていたのだ。そのため25号車との差は、#96阪口晴南選手がコースインした時点でおよそ17秒。残りの周回数は25周前後と予想され、その17秒を挽回できるのか?
しかし阪口晴南選手は、ただひとり2分1秒台というタイムで周回、#25松井孝允選手との差を1周2秒以上削っていく。4本のニュータイヤを装着した96号車はタイヤのパフォーマンスを引き出すことができるが、スタートから同じタイヤを履く25号車はゴールするまでタイヤを持たせる必要があり、無理ができる余裕はない。96号車が25号車のテールにピタリと着くのは、誰が見ても時間の問題だった。
そして41周目、阪口晴南選手はペースの苦しい#25松井孝允選手を、デグナーの手前でオーバーテイクし、トップに立つ。その後もハイペースで差を一気に拡げ、45周目には12秒以上のギャップを作ることに成功。そこからはペースを落としてクルージング、49周でトップチェッカーを受けた。
阪口晴南選手は「岡山での開幕戦の時は、何が何だか判らないうちに優勝していたんですけど、今回は自分でチェッカーを受けることができたので、本当に嬉しいです」。開幕戦の優勝は、予選は走ったものの、決勝レースを走ることはなかった。そういう意味ではスーパールーキーにとっては、全く重みの違う2勝目だったに違いない。
決勝レースを冷静に振り返ると、速いマシンに仕上げてきたK-tunes Racingが横綱相撲をしたと言っていいかもしれない。
スタート直後、タイヤ無交換作戦ゆえにギャップを拡げようとしたはずの25号車をレジェンド級ベテラン・新田守男選手が逃がすことなくキッチリとマークした。スーパールーキー・阪口晴南選手は予選Q2で2位を獲得しただけでなく、タイヤ交換で生まれた20秒近い差をあっという間に削り取り、ズバッとオーバーテイクして見せた。2人のドライバーの活躍を支えたのもまた、競争力のあるマシンがあったからだ。
「取り返したね!本当にホッとしましたよ」と言う影山正彦チーム監督は、その言葉通りに表情が緩んでいた。今シーズン2勝目により、チームランキングもドライバーズランキングもトップへと躍り出た。再びチャンピオン争いの中心へと戻ることができたのだ。
そしてこれから、シリーズチャンピオンへ向けた厳しい戦いが、さらに加速していくことは間違いないのだ。