2023.8.5-6 富士スピードウェイ上位争いが可能な速さを見せた第4戦富士
しかしマシントラブルで22位に終わる
2ヶ月ぶりの開催となるSUPER GT。本来、6月〜7月は海外でのレース開催のスケジュールとして設定されていたが、2020年以降は海外での開催は消滅したのだが、その名残なのかスッポリと空白となっている。この長いインターバルの間に各チームはマシンをしっかりと整備し、レースデータから新しい可能性を見い出すなど、競争力の向上に注力したに違いない。
その成果が明らかとなるシリーズ第4戦の舞台は、富士スピードウェイ。5月のゴールデンウィークとともに、SUPER GTで最も多くのファンが集うレースだ。夏休みということもあり、子供連れのファミリーの姿もみかけることが多い。
ただし、この週末は日本列島を襲う熱波に包まれていた。しかも台風の接近が予想されるという難しい天候だった。それは観客にとっても、チームにとっても、同様である。
K-tunes Racingはかつて富士スピードウェイを苦手としていた。しかし、それは少しずつ解消しつつある。例えば予選結果をみれば、2022年の2レースはいずれもQ2へ進出し、3位と6位からスタートしている。2023年の第2戦では、前年よりもBoP(性能調整)が厳しくなったものの、やはりQ2進出から10位という結果だった。
その要因のひとつはダンロップタイヤの進化だろう。当初はLEXUS RC F GT3と上手くマッチングせず、性能を発揮することができなかった。同じGT3で、同じような重さのNISSAN GT-R NISMO GT3は好成績を残しているが、しかしマシンの細かなプロファイルの違いが、極限での性能に大きく影響するのだ。
着実にマッチングを高めてきたダンロップタイヤによって、96号車は富士スピードウェイでの速さを身に付けてきた。そして今回、新設計のタイヤが投入されることになった。しかもスリックタイヤも、レインタイヤも、両方だ。とくにパフォーマンスがやや不満だったレインタイヤが刷新されたことは、ビッグニュースだった。
土曜日の公式練習から、96号車は好調をアピールしていた。いつものように事前に用意されたテストメニューをこなしながら、5番手タイムをマーク。最終的にはGT300専有時間に予選シミュレーションをしたいくつかのチームに順位を下げられることになったものの、そこに加わらなかったK-tunes Racingにとってそれは重要ではなかった。
新しいタイヤのフィーリングも良好で、しかも距離を伸ばしてもパフォーマンス低下が少ないというデータも得られた。久しぶりに期待が大きく膨らむレースウィークになりそうだった。
午後の公式予選、予選Q1は高木真一選手が担当。いつもよりも遅い15時過ぎというのに、気温33℃、路面温度47℃という高い温度にどう対応するのか?? 高木真一選手はベテランらしく合わせ込み、1分37秒300というタイムをマーク。直後を走っていたマシンに更新されたものの、その瞬間はトップタイムだった。
2度目のタイムアタックは1分37秒580と更新はならなかったものの、B組3位でQ2進出となった。
予選Q2、新田守男選手は高木真一選手からのフィードバックもあり、細かくアジャストした。しかし時刻は16時を過ぎ、気温は低下していた。そのわずかなコンディションの差もあり1分37秒525に留まり、12位という予選結果となった。
予選Q1までの勢いからみると少し残念な結果ではあるのだが、ドライバーふたりともにフィーリングは悪くなく、450kmレースということもあり、決勝レースに対しての期待感は高まっていった。
翌日の日曜日、富士スピードウェイは一転、雨雲が覆っていた。決勝レースを前にした唯一の走行機会であるウォームアップ・セッションは、開始直前まで降っていた雨によってレインタイヤの活躍の場となってしまった。天気予報によれば、決勝レースが行われる午後も断続的に雨が降る可能性があった。
つまり昨日の勢力図は一変するのだ。
問題はその変わる勢力図の中で、96号車がプラスとなるのか? マイナスとなるのか? 雨がどのような変化につながるのか? ただ高木真一選手はその限られた時間の中でチェックすることができたレインタイヤに、大きな進化を感じていた。新たなダンロップのレインタイヤに大きな進化を見ることができたからだ。
スタート直前、雨が降り始め、全車レインタイヤでのセーフティカースタートとなった。3周目にグリーンフラッグが振られ、新田守男選手は最初の1周で12位から9位にポジションを上げた。その勢いは続き、6周目には7位、9周目には6位に。ラップタイムが良く、オーバーテイクによってポジションを上げているのだ。ダンロップの新しいレインタイヤにアドバンテージがあった。
しかしレースがスタートすると雨は上がり、路面は徐々に乾いていく。スリックタイヤへの交換タイミングに注目が集まった。7周目に最初の1台が交換すると、徐々にピットに向かうマシンが増えていく。
96号車は2位のポジションにまで上がっていた11周目、タイヤ交換へ。ミスなくスリックへ履き替え、新田守男選手はマシンをコースへと走らせた。その直後パワステのトラブルが発覚した。もちろんパワステが作動しなくてもマシンを走らせることはできるだろう。しかしパワステが作動することを前提にセッティングされているので、マシンの性能を100%引き出すことはできない。また市販車ほどではないにしろ、電子制御がマシン全体に張り巡らされているマシンは、そのトラブルが他のユニットにも拡がる危険性もある。
チームはマシンをピットへ戻し、トラブルを解消することを決断した。12周目、ピットに入った96号車はメカニックたちの手に委ねられた。しかし電子制御系のトラブルは原因を発見することがそもそも難しい。最終的にチームはマシンのシステムをリセットすることでパワステのトラブルを解消、マシンをコース上に戻すことができた。
ただしそのピット作業によって、4周遅れとなってしまっていた。そのロスタイムはおよそ450秒だった。
順位は最後尾、27位。しかしトラブルを解消した新田守男選手は快調にマシンを走らせる。トップグループとラップタイムに差はない。
28周目、#244GR Supra GTに車両火災が発生し1コーナーでストップ。消火活動のためにセーフティカーとなった。34周目に再スタートするのだが、それまで1分39〜40秒で走っていたマシンは41秒台へとペースが苦しくなっていた。タイヤのコンディションがセーフティカーによって変わってしまったのだろう。
45周目に高木真一選手へとドライバー交代。もちろんタイヤも交換した。すると96号車はペースを取り戻し、56周目にはこの日のベストラップとなる1分39秒176を記録。トップグループと変わらない快走は、しかし直後に停められてしまう。57周目、#25GR Supra GTに火災が発生。火の勢いが強く、停まったのが13コーナーと狭く、消火活動のためにレースは赤旗中断となった。
レース再開を待ちホームストレート上に並べられたマシンに、強い雨が降り始めた。通常は赤旗中断中はマシンに触ることはできないが、レインタイヤへの交換が許された。
セーフティカースタートから63周目にグリーンフラッグが振られ、高木真一選手はレインタイヤに変わっても快走を続ける。しかし雨は上がり、再び路面はドライへと向かっていく。チームは74周目にスリックタイヤへの交換を実施。まだドライになり切っていない路面は当初ペースが苦しかったものの、すぐにレインタイヤでのラップタイムを超え、ペースを取り戻した。
同じようにスリックへと交換した#11GT-Rがゴール目前、レインのままで走行を続けたトップ2台をオーバーテイクし、優勝を果たした。K-tunes Racingは4周遅れの23位でレースを終えた。レースペースに優れ、チームは3度のピットストップもミスなく完璧にこなすことができた。もしパワステのトラブルが無ければ……。
ここでザックリとした計算をしてみよう。450秒のロスタイムは1分41秒のラップタイムで走るとすれば4周で404秒であり、4周遅れはキャンセルされる。さらに46秒前へ出ることができるのだが、レースタイミングでは#11GT-Rとのフィニッシュラインでのタイム差は、なんと45秒784だったのである。
リザルト2023 AUTOBACS SUPER GT Round.4 FUJI
08/06 決勝レース 富士スピードウェイ 天候:雨 路面:ウエット
Pos. | Car No. | Machine Driver | Laps | Time / Gap | Best Lap | Tire | SW |
---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 11 | GAINER TANAX GT-R NISSAN GT-R NISMO GT3 富田竜一郎/石川京侍/塩津佑介 |
93 | 3:45'08.233 | 1'38.323 | DL | 18 |
2 | 7 | Studie BMW M4 BMW M4 GT3 荒 聖治/柳田真孝 |
93 | 7.904 | 1'39.863 | MI | 75 |
3 | 6 | DOBOT Audi R8 LMS Audi R8 LMS 片山義章/R.メリ・ムンタン/神 晴也 |
93 | 8.292 | 1'39.304 | YH | 12 |
4 | 56 | リアライズ日産メカニックチャレンジGT-R NISSAN GT-R NISMO GT3 J.P.デ・オリベイラ/名取鉄平 |
93 | 14.194 | 1'39.509 | YH | 90 |
5 | 31 | apr LC500h GT LEXUS LC500h 嵯峨宏紀/小高一斗/根本悠生 |
93 | 20.912 | 1'38.554 | BS | 9 |
6 | 61 | SUBARU BRZ R&D SPORT SUBARU BRZ GT300 井口卓人/山内英輝 |
93 | 21.414 | 1'39.109 | DL | 18 |
23 | 96 | K-tunes RC F GT3 LEXUS RC F GT3 新田守男/高木真一 |
89 | 4 Laps | 1'39.176 | DL | 6 |
ファステストラップ 1'38.323 #11 GAINER/富田竜一郎
※タイヤ BS=ブリヂストン DL=ダンロップ MI=ミシュラン YH=ヨコハマ
コメント
影山正彦 チーム監督
「ダンロップタイヤの新しいレインが、今回のコンディションで速さを発揮してくれて、新田選手はスタート直後からポジションを上げることができました。耐久性はまだ不明な部分もありますが、速さは十分でしたね。ただその後のタイヤ交換でトラブルが起きてしまいました。マシンはスリックに変えてからも十分な速さがあったこともあり、本当に悔しいレースになりましね。何事もなく進めていれば上位入賞が見えていたと思います」
新田守男 選手
「いいレースになりそうな感じだっただけに、本当に悔しいですね。あまり悔しい、って言いたくないんですけど、本当に久しぶりに悔しい思いをしましたね。スタートからダンロップの新しいタイヤは良くて、着実に前に出ることができました。前回の雨のレースでの不満点をダンロップがしっかりと直してくれたことが、速さにつながったんだと思います。レース後半はテストというか、しっかりとデータを得ることができたので、今後のレースに活きてくると思います」
高木真一 選手
「新田選手がいいスタートでポジションも上げ、本当に良い結果が出せた可能性のあるレースでしたが、トラブルによって残念な結果になってしまいました。ただドライでも、ウエットでも、いいモノを見つけることができたので、それは残りのレースにプラスにすることができると思います。次は得意としている鈴鹿サーキットなので、いい結果へとつなげたいですね」