父親からプレゼントされたカート
K-tunes Racingへ新加入を果たした、弱冠19歳。阪口晴南選手は、まだまだ発展途上の若手ドライバーだ。普段は大人しく、優しさが顔に出ているようなキャラクターだ。ただ新田守男選手によれば「ヘルメットを被ると人が変わるタイプ」ということだが、そもそも優しいだけではレーシングドライバーとして実績を積み上げることはできない。
カートに初めて乗り込んだのは2歳6カ月。ちょうど2歳の誕生日、父親からプレゼントされたカートを実際に走らせたのだった。カートには子供が乗るためのキッズカートがあり、エンジンの排気量もカート自体のサイズも小さい。子供たちは身体は小さいものの、ヘルメットの外形サイズは大人用とあまり変わらないので、頭でっかちな姿になり、それがまた可愛さを増幅させる。
カートショップ『アキランド』を経営する父親にとっては、ジュニアカートはごく自然なプレゼントだったかもしれないが、幼い晴南クンにとっては、それほど喜ばしい体験ではなかったようだ。
「2〜3歳の頃の事はあまり覚えていないんですが、4〜5歳になってコースを走れるようになってからも楽しくはなかったと思います。エンジンの音はうるさいし、振動も大きいし、カートに乗ることが楽しいという感覚はなかったですね」
子供ながらに感じたのは、カートの持つ凶暴な一面だった。その感覚のままであれば、熱心にカートを走らせることはなく、レーシングドライバー阪口晴南は幻に終わっていたことだろう。しかし、キッカケは約束されたかのように、やって来た。
「5歳の時に初めてレースに出場したんです。そのレースで勝つことができたんですね。ただただ走るだけとは違って、他の人とレースをするのは楽しかったんです。しかも次のレースでは、2〜3歳年上の選手たちと戦って、負けてしまったんですね。それが悔しくて、カートに熱中するようになりました」
競うことの楽しさ、勝つことの喜び、そして負けることの悔しさ。アスリートとしての本能が刺激され、芽吹いた瞬間だったのだろう。それから阪口晴南少年は、カートに注力し、少しずつ、しかし確実にステップアップしながら、成長していった。