2021.6.5-6 富士スピードウェイ第1戦で幸先良くトップチェッカー!
チャンピオン獲りのシーズンで好発進
2013年からスタートしたインタープロトシリーズ、K-tunes Racingは2017年から参戦している。ジェントルマンドライバーとプロドライバーがマシンを共有し、それぞれ別のレースに参戦するというレースフォーマットはとてもユニークだ。とくにジェントルマンはプロから全面的なバックアップを受けながらスキルアップが可能であり、レース自体は別々ではあるが、プロと共に戦うイベントでもある。
K-tunes Racingのチーム代表でもある末長一範選手は、N1仕様の86からレースキャリアをスタートさせ、インタープロトシリーズと同時開催されているIS F CCS-Rに参戦してきた。純レーシングマシンはインタープロトが初めての経験であり、市販車ベースとは比較にならないシャープでクイックな操縦性は、楽しいと同時に、当初は簡単に扱えるものではなかった。
すでに参戦5年目、優勝経験もあり、スキルも向上している。末長一範選手にとって今シーズンは、チャンピオン獲得を狙うに十分なタイミングといえるだろう。
2020シーズンの最終戦は今年1月。それからテスト走行する機会はなかったが、今年2月に完成したばかりのK-tunes Racingファクトリー「BOOSTAR」に設置しているドライビングシミュレーターを使い、事前のトレーニングは行ってきたという。
今シーズンからジェントルマンはレースフォーマットが変更になり、予選ベストタイムで土曜日の第1レースのグリッド、予選セカンドベストで日曜日の第2レースのグリッドが決まるという、完全に独立した2レース制となった。
その予選、雨は上がっていたものの、路面はウエット。マシンの特性としてウエットコンディションはコントロールが難しい。そういった状況でも落ち着いた走りを見せ、ベストタイム、セカンドベストともに4位となった。
午後の第1戦、路面は完全にドライとなっていた。末長一範選手はオープニングラップでひとつポジションを上げると、2周目の1コーナーで#16渡邊久和選手をオーバーテイクし2位へ。その勢いのまま、トップを走る#7山﨑裕介選手に迫っていく。そして6周目、見事にトップに立つ。8周目には、このレースのファステストラップとなるベストタイム1分50秒433をマーク。トップに立ってからも安定した走りを見せ、見事トップチェッカーを受けた。昨年の第3戦以来、通算4勝目を挙げた。チャンピオンを狙うシーズン、その初戦で優勝できたことは大きな一歩だ。
翌日の朝に行われた第2戦、再び4番手からのスタートとなる。しかし天候は雨がパラつき、スリックタイヤでの走行は問題なさそうだが……。
末長一範選手は今回もまたスタートを決めて、1コーナーで3位へと浮上。最終コーナーからの立ち上がりでスリップストリームに入り、#16渡邊久和選手をストレートでオーバーテイクして2位となった。まるで昨日のレースを再現しているかのような展開だ。
トップの#7山﨑裕介選手までは約4.5秒差、2連勝というストーリーも浮かんでくる。ただし2台の間にはエキスパートクラスのマシンが3台入っている。ラップタイムでは末長一範選手のほうが0.5秒以上速く、5周目には約2.3秒まで差が縮まる。しかし6周目、第1セクターをクラスベストで走り抜けた直後、コカコーラコーナーで走行ラインを外してランオフエリアへ。すぐにコースに戻ることはできたものの、走りのリズムを崩して2秒以上タイムロスしてしまった。
1秒前後の差で追走していた渡邊久和選手が、ジリジリとその差を詰め始めた。そして9周目、ファステストラップとなる1分49秒のタイムをマークした渡邊久和選手にオーバーテイクを許して、末長一範選手は3位へ。その後50秒台のハイペースで再逆転を狙ったものの届かず、結局3位でチェッカーフラッグを受けた。
2連勝には届かなかったものの、連続の表彰台に立つことができ、シリーズポイントをしっかりと積み上げることができた。チャンピオンへの道を、着実に前へ進むことができた第1大会となった。
2021.6.5-6 富士スピードウェイレインからスリックへのタイヤ交換
そのタイミングが明暗を分けた
それはとても難しい問題だった。さまざまな戦略が浮かび上がる中、K-tunes Racingと中山雄一選手が決めたのは、結果として最も不味いルートだった。
決勝レースの少し前まで降り続いていた雨は、ピタッと止み、6月の生暖かい空気が富士スピードウェイを包んでいた。そうなると路面が急速に乾いていくことは確実。つまりレースがスタートする時点ではレインタイヤが必要だが、次第に乾いていきスリックタイヤへのほうが速くなる。
では、どのタイミングでタイヤ交換するのか?インタープロトシリーズはスプリントレースであり、そもそもレース中にタイヤ交換することを想定していない。ピット作業する人員も少なく、ロスタイムを含めて1分30秒前後もの時間がかかることが予想されていた。ほぼ1周分に近い時間がかかるのだ。
しかもプロフェッショナルレースでは、第1戦と第2戦が連続していて、第1戦のレース結果がそのまま第2レースのスターティンググリッドとなる。第1戦でタイヤ交換すれば第2戦のスターティンググリッドが悪くなるが、第2戦でタイヤ交換をすれば当然1周近いハンデを負うことになる。何を切り捨て、何を狙うのか?チームは選択を迫られた。
第1戦のスターティンググリッドで、スリックタイヤを選択するというチャレンジャーは誰もいなかった。予選7番手からスタートした中山雄一選手は、オープニングラップで4位までポジションを上げた。そのオープニングラップではいくつかの波乱もあり、予選4番手だった#7野尻智紀選手はコースオフしてしまい、最後尾まで落ちてしまった。そこで、ピットに入り誰よりも早くタイヤ交換を実施。しかしまだ路面はスリックには不十分で、当初はレインタイヤよりも10秒以上も遅いペースとなっていた。やや遅れて#55関口雄飛選手もタイヤ交換を行った。この2人のペースが、他のチームにとってはスリック交換への見極めの指標になる。レインタイヤのタイムと同等となったのは5周目だったが、他のマシンはすでに6周目を走り終えていた。10周のレースは、残り4周となっていた。
第1戦でタイヤ交換したのは、5周目に#37福住仁嶺選手、7周目に#88佐々木大樹選手と、合計4選手となった。優勝したのは#44山下健太選手でポール・トゥ・ウィン。中山雄一選手は4位でレースを終えた。
そしてその2人は、チェッカーフラッグを受け、1周してグリッドに着く前にピットロードへ向い、タイヤ交換を行ったのだ。つまり第1戦でも第2戦でもない、隙間にタイヤ交換のロスタイムを済ませたのだ。魔法のようなタイヤ交換劇だったが、しかし当然、その2台はピットスタートとなる。インタープロトシリーズでは、CCS−Rクラス、スープラクラスの2つのレースが一緒に行われており、ピットレーンがオープンになるのは、その2つのスタートが終わってから、ということになる。しかもタイヤは全く温まっておらず、大きなロスを生むことになってしまった。
第2戦のオープニングラップを終え、中山雄一選手はトップを走る福住仁嶺選手に対して約45秒ほど遅れて11位。ただしその間には同等のタイムで走るスープラクラスが3台入っているので、実質的には14位のようなもの。上位陣までの距離は遠かった。
結局中山雄一選手は9位で第2戦のチェッカーフラッグを受けた。優勝したのは福住仁嶺選手で、2位は関口雄飛選手、3位には野尻智紀選手と、第1戦を捨ててタイヤ交換したドライバーが結局表彰台に登った。また無交換でレインタイヤのまま第2戦を走りきった坪井翔選手はペースが苦しく7位だった。
インタープロトシリーズ第1大会、プロフェッショナルレースを戦った中山雄一選手は、第1戦が5位、第2戦が9位と、いずれも上位入賞とはならず、悔しい結果となった。タイヤ交換の戦略が上手くいかなかったこともあるが、そもそものレースペースも十分とはいえず、表彰台を狙うにはまずマシンの速さが必要であることが、明確だった。
コメント
Gentleman Driver末長一範
「(第1戦は)楽しいレースでした。オーバーテイクすることもできたし、結果として優勝に繋げることができました。幸先の良いシーズンスタートになりました。でも第2戦はレース後半が苦しかったですね。5周目にAコーナーで飛び出してしまってリズムを崩してしまうと、それを取り戻すのが難しい。やっぱり焦ってしまって、元に戻せない。レースラップも49秒台に入れたかったですね」
Professional Driver中山雄一
「タイヤ交換のタイミングをミスしてしまったのは、ボクの反省点ですね。じつは第2レースのフォーメーションラップの後ろに着くことができると、思っていたんですね。ところがフォーメーションで出ることはできず、CCS-Rがスタートしてからコースインしたので、大きなギャップができてしまいました。次の鈴鹿までには、エンジニアやメカニックと協力して、マシンの速さを取り戻したいですね」