2024.8.3-4 富士スピードウェイレース序盤に快走を見せていたものの
マシントラブルによってリタイヤに
〇酷暑の中、全車が厳しいラップタイムに
〇予選を諦め、決勝だけを見据えた戦略を採用
〇アンラッキーなトラブルによってリタイヤ
モータースポーツが、リアルなスポーツであることを改めて思い知らされるのは、極めて不運な状況を受けた時だ。シミュレーションゲームのように、レースラップやタイヤへのダメージなどのパラメーターを入力すれば、そのストーリーに沿った結果が生れるわけではないのだ。
2ヶ月というブランクを経て、第4戦を迎えたSUPER GT 2024シーズン。首を長くしていたモータースポーツファン、そして夏休みの開催という要素もあり、2日間で5万2200人もの入場者数となった。ただし、その数字は去年よりもやや低く、やはり今年の過酷な猛暑が影響した可能性もある。
ちなみに来年の開催スケジュールとしては、暑い8月の開催を避けることが計画されている。
この長い休み期間にチームとマシンはファクトリーでお休みしていた、ということはない。自動車メーカーやタイヤメーカーが主催するテストの機会があり、シーズン後半戦での戦闘力を高めるための、レースとは違った真剣勝負が展開された。
また成績が低調なチームは申請すればプライベートテストが許される場合もある。しかしライバル不在の中では、ターゲットタイムを十分に見定めることができず、そのテストの有効性は限定的となる。
K-tunes Racingの2024年シーズンは、開幕戦岡山で幸先の良い6位入賞、だが第2戦富士ではタイヤバーストによって17位で終えた。そして第3戦鈴鹿は9位入賞を獲得、という浮き沈みの激しい戦績となっていた。第2戦のリベンジというだけでなく、シーズン後半戦への勢いをつけるためにも、今回の富士はキーになると思われていた。
レースウィークの天気予報は晴れ。単純な気温も高いが、真夏の高い太陽からの日差しは強く、路面を加熱する。第2戦ではタイヤバーストを生じてしまったため、その高温下ゆえに大きくなるタイヤの負担に、どのように対応するのがベストなのか?? チームとドライバーはその答えを探すことになる。
第2戦は3時間レースだったが、今回は350km。レース距離は3分の2程度が想定されたが、タイヤにとっては負担が軽くなるわけではない。なぜなら3時間レースは2回交換だが、350kmレースでは1回交換だからだ。逆にタイヤ交換が1度しかないため、そのタイミングを柔軟に設定することができない。
予選を前にした土曜日午前中の公式練習、今回持ち込まれた2つのスペックのタイヤを比較。そこで得られたのは、ハードなスペックでも予選で十分に戦えるだろう、という結果だった。耐久性を重視したハードが、レースを戦う上では有利なのは間違いない。ライバルたちのタイムを見ても、ハードで十分な予選結果が得られると思われたのだ。
しかし予想は裏切られた。ライバルたちが公式予選でタイムアップを果たし、対してタイムアップできなかった96号車は引き離されてしまったのだ。
予選Q1、高木真一選手はB組で最下位となる14位。「全然ミスもしていないし、しっかりと走ったんですけど、思ったよりもタイムが出なかった」とコメントしてくれた。フィーリングは良くてもタイムは出ない、という状況は時々発生する。
続く予選Q2は、下位のグループ2へ。新田守男選手もまた同様に苦戦し、6番手タイムに終わってしまった。通常であれば予選Q1とQ2の合算タイムが予選結果となるのだが、今回はコンディション変化が予想されたため、予選Q2のタイムが単独で予選結果となり、96号車は22位となった。
第2戦では予選7位だったことを考えると、いかに予選が厳しい結果であるかは明白だ。それでも決勝レースを見据えたハードの使用は、レース展開によっては強く後押ししてくれる可能性もある。
日曜日、決勝レースを前に、富士スピードウェイは前日よりもさらに熱くなっていた。路面温度は57℃を超え、タイヤへの負担は最大化。想定された以上に優位な状況が展開されて、まるでK-tunes Racingのためのストーリーが始まったように感じられた。
とはいえ冷静に考えると、ライバルたちがどのような状況になるのかは未知数。レース周回数は77周。1人のドライバーが最低限走行しなければならない周回数は26。つまりスタートドライバーを担当する新田守男選手は、予選Q1とQ2を走ったタイヤで26周目まで走らなければ、ピット作業が1回増えることになり、勝負権はなくなる。果たして、その時のコンディションがライバルたちに対してアドバンテージが存在するのか??
決勝レース、新田守男選手はスタートから着実にポジションを上げていった。1周目で21位、2周目には18位、3周目に17位と、想定通りの追いあげを展開。マシンの微調整によってRC F GT3のフィーリングが向上したことは、レース直前のウォームアップで確認されていた。その成果が出たのだろう。
ラップタイムはその時点ではトップグループと変わらない。公式予選では2秒もの差があったのだが、決勝レースではその差が消えていた。このペースを維持できれば、上位進出の可能性が見える。
新田守男選手は十分なペースで周回を続けていたが、前車がタイヤ無交換を前提に戦略を立てた速いマシンとなり、なかなか距離を詰めることも難しくなっていた。そうしていると15周目あたりからはラップタイムが苦しくなり、逆に後続のマシンの接近を許すような形になっていった。
ポジションも徐々に落としてしまう。17周目に18位、20周目に20位、22周目に21位。ドライバー交代ができるミニマムの周回数26まで、あとわずか。ニュータイヤに交換した後の攻勢を考えると、ポジションはともかく、なんとかペースを維持して、上位陣との距離が広がらないでもらいたい。
しかし22周目、新田守男選手は走行中に違和感を感じていた。「前のマシンがオイルを吹いているように思った」というのだが、LEXUS RC F GT3のフロントスクリーンに降り注いでいた液体は、自らの冷却水だったのだ。
GT3マシンにはさまざまなセンサーが装備されており、当然冷却水を失った状況をセンシングしないはずはない。24周目、新田守男選手は96号車をピットレーンへと進めることになった。
ピットガレージでのチェックで、ラジエターにタイヤのバランスウエイトが突き刺さり、穴が空いていることが確認された。ラジエターの交換が不可欠であり、レースを断念。チームはリタイヤを決断した。
レーシングマシンのホイールに付けられるバランスウエイトは、ホイールの内側に接着されている。走行中は遠心力によってホイールに押しつけられることになるので、自然に外れることはない。それでもブレーキの発熱の影響も受けるため、バランスウエイトが外れないように、さらに上からメタルテープで固定する。
つまりバランスウエイトの直撃を受け、それがラジエターを破損させるというのは、かなりアンラッキーな事態だ。いうまでもなく、ドライバーが避けることも困難だ。
失意の公式予選の結果に始まった第4戦、決勝レースはスタート直後の好ペースもあり、その逆襲が期待された。しかしタイミングを得る直前、アンラッキーなトラブルによってリタイヤという結果となった。
リザルト2024 AUTOBACS SUPER GT Rd.4 FUJI GT 350km
8/4 決勝レース 富士スピードウェイ 天候:晴れ 路面:ドライ
Pos. | Car No. | Machine Driver | Laps | Time / Gap | Best Lap | Tire | SW |
---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 65 | LEON PYRAMID AMG Mercedes AMG GT3 蒲生 尚弥/篠原 拓朗/黒澤 治樹 |
71 | 2:01'50.865 | 1'39.245 | BS | 42 |
2 | 4 | グッドスマイル 初音ミク AMG Mercedes AMG GT3 谷口 信輝/片岡 龍也 |
71 | 31.647 | 1'39.498 | YH | 24 |
3 | 56 | リアライズ日産メカニックチャレンジ GT-R NISSAN GT-R NISMO GT3 佐々木 大樹/J.P.デ・オリベイラ |
70 | 1 Lap | 1'39.394 | YH | 32 |
4 | 777 | D'station Vantage GT3 Aston Martin Vantage GT3 EVO 藤井 誠暢/C.ファグ |
70 | 1 Lap | 1'39.526 | DL | 46 |
5 | 88 | JLOC Lamborghini GT3 LAMBORGHINI HURACAN GT3 EVO2 小暮 卓史/元嶋 佑弥 |
70 | 1 Lap | 1'39.993 | YH | 50 |
R | 96 | K-tunes RC F GT3 LEXUS RC F GT3 新田守男/高木真一 |
24 | 47 Laps | 1'40.791 | DL | 14 |
ファステストラップ 1'39.245 #65 蒲生尚弥
※タイヤ BS=ブリヂストン DL=ダンロップ MI=ミシュラン YH=ヨコハマ
コメント
影山正彦 チーム監督
「レースの序盤で17番手までポジションを上げることができて、後半での追いあげに期待していたんですが、ラジエータに穴が空いてしまってリタイヤと、非常に残念な結果となりました。ツキも無かったですね」
新田守男 選手
「15周目あたりからタイヤが厳しくなってしまって、それでも何とかポジションを守ろうと走っていたんですけど、前のマシンがオイルを吹いているのかと思ったら、自分のマシンの冷却水で、アンラッキーでした」
高木真一 選手
「新田選手のレースの入りも良くて、ボクが走る後半ではソフト側のタイヤを使って、追いあげる作戦だったんでした。昨日の公式練習でチェックしていたのでいい結果につなげられると思っていたんですが、残念です」