2024.10.19-20 オートポリス災害級の雨に祟られた
オートポリスだったが
それをチャンスに大躍進3年ぶりの表彰台ゲット
〇ライバルを圧倒するレースペースで追いあげ
〇豪雨により変則的なレースウィークとなった
〇速さでつかみ取った3年ぶりの表彰台に歓喜
AUTOBACS SUPER GT 2024 第7戦は、大分県オートポリスを舞台に、10月19日(土)〜20日(日)の2日間、開催される予定だった。しかし1時間当たり30mmを超える災害級の豪雨、さらには雷が土曜日のオートポリスに襲いかかり、最終的に土曜日の全ての走行プログラムがキャンセルという事態となった。
通常、SUPER GTのフォーマットでは、土曜日の午前中に練習走行が2時間前後設定され、セッティングなどのチェックを行う。そして午後に公式予選が行われる。その全てがキャンセルされ、公式予選を日曜日の朝へ。そして午後には決勝レースという、チェックが全くできないまま、予選を走らなければならない。
しかも公式予選は30分間でQ1とQ2の区別はなく、ドライバーは1人でもOKで、ベストタイムが決勝のスターティンググリッドとなる、変則的なパターンだ。日曜日の午前中にはピットウォークやFIA-F4の決勝レースがあり、無理やり割り込ませるにしても、十分な時間は取れないのだ。
翌日の08時、GT300クラスの公式予選がスタートした。ドライバーは高木真一選手だ。まだコースはウエットで、レース運営からもウエット宣言が出されていた。当然レインタイヤでのコースインとなる。
ウエットで一発勝負の予選、しかもオートポリスとなれば、アクシデントが起きる可能性は低くない。もし誰かがクラッシュしてしまって、タイヤバリアなどを修復する必要が出た場合、予選が途中で終了ということを考慮しなければならない。つまり早めのタイミングで良いタイムを出しておく必要があるのだ。
レインタイヤでコースインしようとした高木真一選手だったが、エンジンがスタートしなかった。電気系のトラブルであることはすぐに判ったが、普通の乗用車と同じように、電気系は原因を突き止めるのが難しい。実際、この日もマシンの電源を再投入することで無事エンジンが始動、コースインすることができた。
コースはマシンが走行していることもあって、徐々に乾いていく。そうなると問題はどのタイミングでスリックタイヤへと交換するのか?? 高木真一選手はとりあえず15位のタイムを出していたが、まだ十分に路面が乾いていないタイミングでスリックタイヤへと交換してしまうとリスクが大きい。やや遅めにコースインしたこともあって、スリックタイヤへの交換もまた、全体と比較すれば遅めとなった。
レコードラインだけがドライになったコース上で、高木真一選手はスリックタイヤのウォームアップをする。次の周回でタイムアタックに入るのか?? といった残り6分、他車がコースアウトし、公式予選は赤旗中断となってしまった。
このまま予選が終了となれば、下位からのスタートとなってしまう。しかし幸運なことに公式予選は再開され、スリックタイヤでタイムアタックするチャンスを得た。そしてタイミングモニター最上位に、96号車が躍り出た。その時点でトップタイムをマークしたのである。
最終的に3台のマシンに先行され、公式予選は4位となった。今回のようなコンディションではタイムアタックは最後の最後、少しでも遅らせたほうが有利だ。順位はともかく、トップを争う速さを持ったことが証明された。
そして公式予選では、エンジン始動のドラブルと、赤旗での途中終了による予選下位、という2つの危機は乗り越えられ、十分な運も味方していた。
すっかりドライコンディションへと生まれ変わった決勝レース前。予選とは全く対照的だ。ただし気温は17℃、路面温度は24℃と、それほど暖かくなっていない。問題はその温度が、これから決勝で使うタイヤとマッチするかどうか??
いうまでもなく、今週末のオートポリスでは走行機会がないまま、公式予選に突入するなど、十分にチェックすることはできなかった。決勝レースを前に、通常の2倍、40分のウォームアップ走行が設定されたが、その後の決勝レースまでの時間的余裕もなく、できることは限られていた。しかし、そうした窮地こそ、上手く使いこなすのは2人のベテランドライバーにとってアドバンテージとなることだろう。
スタートドライバーは高木真一選手。2列目4位からのスタートだが、オープニングラップで3位へとポジションを上げる。2位は#56GT-Rで、テール・トゥ・ノーズでハードなバトルを展開していく。その間にトップを走る#777アストンマーチンはリードを拡げ、逃げていく。
6周目、その難敵をオーバーテイクすると、#777との差は1.8秒となっていた。しかし7周目にその差は0.6秒にまで縮まり、再びバトルモードへ突入。走りの安定感でも勝る高木真一選手は11周目、ついにトップに立った。
そこから大幅なリードを作り上げていく。2位以下が1分49秒台から50秒台のペースだったのに対して、1分47秒台をマークするなど、ギャップはどんどん拡がっていった。わずか18周目までの7周で19秒409という驚異的な速さだった。もちろんGT500のマシンにオーバーラップされる時のタイムロスを最小限に抑える高木真一選手の技もあった。
トップに立ち、一気にリードを拡げていく。まさに理想的なレース展開だった。
しかし21周目、GT500のマシンがクラッシュし、FCY(フル・コース・イエロー)へ。この時2位は#31LC500hへと変わっていたのだが、そのギャップは45秒721にまで拡がっていた。この大量リードはFCYであれば保持されるのだが……。
非情にも22周目、セーフティカーへと変更。これでリードはほぼゼロとなってしまうだけでなく、実質上のトップの座を明け渡すことになってしまった。このレースでは2度の給油義務が課せられており、いくつかのチームはすでに1度目の給油を済ませていたからだ。つまりこのセーフティカーの投入によって、96号車は45秒のリードに給油1回分のタイムロスを加えた約2分もの時間を失ったことになる。
96号車が最初の給油を済ませた後でセーフティカーが入ったのなら、失ったのは45秒分だけで済んだのだ。最悪のタイミングである。
およそ1周分のタイムを失ってしまい、勝機は完全に霧散してしまったように、誰もが思った。
26周目に再スタートが切られ、再び高木真一選手は2位を引き離していく。#31LC500hに対して約8秒のリードで、33周目に2台連れ添うように最初のピットイン。だがこのピットストップ、K-tunes Racingはノーミスでコースへと送り出したのだが、タイヤ交換をしなかった#31LC500hはなんと50秒近くも早いタイミングでコースへ戻っていた。燃費が厳しいRC F GT3は給油時間がどうしても長くなってしまうのだ。
コース復帰したタイミングは#31LC500hが6位に対して、K-tunes Racing 96号車は12位と、逆転されただけでなく、大きくポジションを落とすことになった。
だが直後、34周目にセーフティカーが入り、そのタイムロスの大部分はキャンセルすることができた。まだまだ運は残されていたのだ。
40周目に再スタートとなり、新田守男選手がポジションを上げていく。40周目に9位、43周目に7位にまで取り戻すことに成功。この時点のトップは#2GR86で、2位が#31LC500h。トップとの差は約20秒となっていた。
そのトップ2台が早くも2度目のピットへ向かったために、50周目に96号車は5位へ。表彰台が見える場所に戻ってきたのだが、ピットインのタイミングが各車バラバラなので順位は判りにくいが、実質トップが#2GR86であることは間違いない。
57周目に3度目のセーフティカーが入り、64周目に再スタート。そのタイミングで多くのマシンが2度目のピットインへ。そのためピットロードは大混雑。単独であればセーフティカー開けのタイミングがタイムロス最少となる。しかし混雑したピットロードでのタイムロスは、アクシデントの種にもなる。斜めにピットへ停止する、いわゆるダイブをした場合はマシンを押し戻してスタートさせなければならず、5秒以上のタイムロスが発生してしまうのだ。
K-tunes Racingは冷静に次の周でのピット作業を決め、5位でコース復帰させることに成功した。
再び高木真一選手がドライブするK-tunes Racing 96号車は、タイミングモニター上は5位だが、まだ2度目のピットが終わっていない#25スープラが3位を走行していたため、実質は4位。前を走るのは#2GR86で、66周目で41秒475も開いていた。
しかし高木真一選手は1分46秒台というハイペースで追いあげていく。70周目に38秒484と着実に差を詰めていくのだが、レース終了までの残り時間は40分を切った。最大でも21周だから、計算上は追いつかない。
表彰台には届かないのか?? そう思っていた75周目、2位を走行していた#6フェラーリが、タイヤのコンディションが苦しいのか大きくペースダウン。#2GR86にオーバーテイクを許し、77周目にはタイヤ交換のためにピットへ。その結果、ついにK-tunes Racing 96号車は3位のポジションへ。
だが追撃の手を緩める高木真一選手ではない。80周目には#2GR86との差を25秒818にまで詰める。残り25分を切っているので、1周2秒以上ずつ詰めなければならないが、さすがにそれほどのタイム差はなかった。だがレースは最後まで何があるか判らない。そのチャンスを最大化するためには、少しでも良いポジションに居るべきだ。
しかし決勝レースは82周目、#61BRZのクラッシュによって、この日4度目のセーフティカーに。マシンの回収に手間取ったこともあり、セーフティカーのまま88周でレースが終了となった。
K-tunes Racingとしては2021年の同じオートポリス大会以来、3年ぶりの表彰台を獲得。また新田守男選手と高木真一選手のコンビでの表彰台は、2010年以来の14年ぶり。メモリアルなレースとなった。
チャンピオンを争っているチームを上回る速さを見せた今回のレース、序盤での大量リードを失ってもなお3位まで復活した。残り2戦でもそのパフォーマンスが注目を集めるに違いない。
リザルト2024 AUTOBACS SUPER GT Rd.7 AP GT 3hour
10/20 決勝レース オートポリス 天候:曇り 路面:ドライ
Pos. | Car No. | Machine Driver | Laps | Time / Gap | Best Lap | Tire | SW |
---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 88 | VENTENY Lamborghini GT3 LAMBORGHINI HURACAN GT3 EVO2 小暮 卓史/元嶋 佑弥 |
88 | 3:01'28.683 | 1'47.436 | YH | 50 |
2 | 2 | muta Racing GR86 GT TOYOTA GR86 堤 優威/平良 響 |
88 | 4.005 | 1'45.881 | BS | 50 |
3 | 96 | K-tunes RC F GT3 LEXUS RC F GT3 新田守男/高木真一 |
88 | 14.971 | 1'46.548 | DL | 14 |
4 | 7 | Studie BMW M4 BMW M4 GT3 荒 聖治/N.クルッテン |
88 | 19.232 | 1'47.155 | MI | 50 |
5 | 777 | D'station Vantage GT3 Aston Martin Vantage GT3 EVO 藤井 誠暢/C.ファグ |
88 | 21.593 | 1'47.062 | DL | 50 |
6 | 65 | LEON PYRAMID AMG Mercedes AMG GT3 蒲生 尚弥/篠原 拓朗 |
88 | 24.449 | 1'45.523 | BS | 50 |
ファステストラップ 1'45.523 #65 篠原 拓朗
※タイヤ BS=ブリヂストン DL=ダンロップ MI=ミシュラン YH=ヨコハマ
コメント
影山正彦 チーム監督
「今回持ち込んだタイヤがコンディションにマッチするかどうか、それが今日のレースの決め手でしょうね。ともかく久しぶりに3位表彰台に立てたということが重要で、残り2戦になりましたが流れを活かしたいですね」
新田守男 選手
「1回目のピットタイミングがちょっと遅れてしまって、ボクがコースに戻った場所もグチャグチャで、しかもすぐにセーフティカーに。運が無かったような、良かったような状況で、表彰台に立てたのは良かったと思います」
高木真一 選手
「最終的にセーフティカーのタイミングがアンラッキーが続いたので、ダメかなと思っていたんですが、しっかりと3位表彰台に上がることができました。これだけ良いレースを続けていれば優勝に手が届くと思います」