GT World Challenge Asia マシン紹介GT3 GT4
GTカーレースを戦うマシンたちの系譜と中身の違い
GTワールドチャレンジ・アジアはGT3マシンが主役である。K-tunes RacingはそこにLEXUS RC F GT3で参戦する。
SUPER GTで2018年から使用しているマシン。レクサスのクーペであるRCに、5リッターV8エンジンを搭載したエボリューションモデルであるRC Fをベースに、GT3というレギュレーションのレース用マシンへとモディファイされている。
まずGTマシンについて説明してみよう。
モータースポーツを統括するFIA(国際自動車連盟)がマシンのレギュレーションを決めている。そこにはF1も、FE(電気自動車のフォーミュラマシン)も、WEC(世界耐久選手権)も、世界中で開催されるレーシングマシンは例外なく決められている。GTマシンもその中にあり、2ドアの市販車をベースにしたレーシングカーで、いくつかのレベルがある。
最上位にあるのはGT1で、GT2、GT3、GT4と数字が増えるに従ってパワーが小さくなり、市販車との共通性が強くなる。またマシンの価格も下がり、運用コストも下がるので、使用しやすくなっていく。
GT1は事実上のプロトタイプカーで、市販車をイメージするカウルデザインを採用した、純レーシングマシンだった。その進化の過程で25台の市販化義務などが無くなり、完全なレーシングカーとなった。トヨタTS-020もGT1の進化系だ。やがて建前を棄ててプロトタイプカーとなり、初期のGT1は消滅した。
GT2はGT1よりも市販車に近い設定だった。エンジンはNAが8リッターまで、ターボが6リッターまでで、4WDの禁止、カーボンブレーキの禁止、フルATやセミATの禁止、アクティブサスペンションの禁止など、制限されていた。しかし人気が高まらず、ルマンのLM-GTEクラスへと名前を変えている。
しかし2021年、新しいGT2マシンによるGT2ヨーロピアンシリーズがスタートしている。
GT3はさらに市販車との共通性が高く、市販車のモノコックを使用しなければならない。また各車の性能均衡を保つため、定期的に性能をチェックするための走行テストを実施し、ウエイトやリストリクター、ターボの過給圧などを制限している。これをBoP(バランス・オブ・パフォーマンス)と呼んでいる。ちなみにSUPER GTの場合には、FIAのBoPの他にSUPER GTオリジナルのBoPが与えられる。
ボディの中央部分は市販車のモノコックが使用されるものの、前後には構造上も自由度があり、強いダウンフォースが得られる設計が可能。またカーボンのボディメイクのため、市販車よりも大幅な軽量化を果たしている。ボディ幅は巨大なフェンダーによって拡大されていて、ワイドなタイヤを装着することができる。
エンジンの搭載位置を低くする、あるいは後方へと移動させるといったことも許されており、運動性能の面でも大幅に向上している。トランスミッションはレース用へと変更されるが、マシンへの搭載性のためにあえて市販ミッションのケースの内側に組み込む構造としているマシンもある。
駆動方式は4WDが禁止されており、サスペンションは形式名が変わらなければ設計変更可能。エンジンは他のモデルに搭載されているものへの換装はOKだったが、2022年に禁止になっている。ほとんどのパーツはFIAで認証されたパーツを使用しなければならず、チームが独自のカスタマイズ可能な部分はかなり限定されている。
元々はGT1やGT2がプロドライバー向けのレース用で、GT3はジェントルマンドライバー向けという設定だったが、GT1やGT2がコストの高騰で消滅したこともあり、GT3がその代役となっている。それが自動車メーカーへ開発競争を促し、性能は大きく進化した。
しかしそれが同時にコストの上昇と、性能の先鋭化につながり、ジェントルマンドライバー向けという本来の設定に無理が生じてきた。そこで、さらにひとつ下のランク、GT4が登場することになった。
GT4は市販チューニングカーと呼べるほど、ベースマシンに近い。ボディも、エンジンもトランスミッションも、サスペンションも市販車のまま。たとえばGR Supra GT4では、ノーマルと同じ8速ATが採用されている。ボディの幅も変更されていないので、タイヤも市販車に近いサイズのものが装着される。
対照的にインテリアはレースを走るための装備へと変更されていて、レーシングカーらしいものになっている。
GT3と同様にBoPによって各車の性能調整が実施される。またエンジンパワーは、GT3が550ps前後なのに対してGT4では450ps前後となっているのだが、エンジンコンピューターに対してセットするUSBプラグによってパワーを制御することが可能になっている。USBプラグは5種類用意されており、レース主催者側によって指定される。
車両価格も3000万円前後と、8000万円前後必要なGT3と比較して、大幅に低下している。そもそもベースとなるモデルはメルセデスAMG GTやアウディR8、ポルシェといったスーパーカーが多く、豪華な装備の市販モデルと変わらない値段で購入できる。
GTマシンのエントリーとしてGT4は人気を高めてきた。しかし、一方でスーパーカーやスーパースポーツのジャンルでは市販車が年々ハイパワーとなっている。ひと昔前は400psが高性能車の規準だったが、現在は600psへとそれが高まっている。サーキット走行では、GT4のほうが軽量でハンドリングに優れ、ラップタイムは速いかもしれないが、強烈な加速力やトップスピードには欠ける。それに対して不満を持つジェントルマンドライバーも存在する。
そこで生れたのが、新しいGT2だ。
数字は逆転するが、GT3とGT4の中間を埋めるのが、新しいGT2となる。
成り立ちはGT4に近い。市販車のボディを活かし、市販車のエンジンをチューニングすることで、ハイパワー化している。GT2のエンジンパワーは700ps前後となっている。そのパワーに対応するため、ノーマルのトランスミッションでは不十分なので、レース用へと交換される。
エンジンパワーはGT3を越えていても、車両重量は重く、ダウンフォースも少ないので、ラップタイムはGT3とGT4の中間程度に収まっているようだ。
GT2のレースはいくつか存在するが、例えばGTワールドチャレンジ・ヨーロッパではドライバーがブロンズに限定されている。あくまでもジェントルマンドライバーの不満を解消するためのマシンであり、プロドライバーが真剣に走らせるためのものではない、という設定になっている。
GTマシンのレースは、世界中で高い人気を獲得し、さらに拡がる可能性が高い。現状のGT3、GT4、GT2はいずれもカスタマイズ不可で、公認されたパーツで走らなければならない。チームは開発することができないので、開発コストも発生しない。
また様々なマシンがラインナップしていて、自分の好みのマシンを選択することもできる。BoPによってひとつのマシンが勝利を独占するようなことがないことが、多くの自動車メーカーの参加につながっている。
さらにはメーカーのアップデートは、すでに販売しているマシンにも施すことができる=レトロフィットが可能になっている場合が多い。これにより短いスパンで新しいマシンへと買い換える必要もない。
大人気だったレースも、さまざまな事情で消えていった。しかし、その要素が現在のGTレースでは排除されているので、そう簡単に衰退する道筋は見えない。